2016年3月21日月曜日

情報リテラシーの問題について.

 最近、HPVワクチンに関連して、以下のような報道が各新聞社・テレビ局・ニュースサイトであったので少しメモをしておく.

 子宮頸がんワクチン副反応「脳に障害」 国研究班発表(参照

 科学的根拠をどう解釈するかということについて、一般市民の理解を前提にすることは困難だと思うし、それはメディアの側で一定程度は行うべきと思うが、このザマであるから手に負えない.また、信州大学の池田先生という方は、どういうつもりでこういう結果を発表するのだろう.厚生労働省も、こういう研究結果を吟味せず公開するのはいかがなものか.

 池田先生のプレゼンテーション(参照


 「NF-κB ノックアウトマウスを使う」という方法論自体が、特殊な状態すぎて結果の価値を損なうという話もあるが(参照)、まず動物実験が医学における科学的根拠で、どのような立ち位置なのかを理解しておく必要がある.
 医学研究では特に、「エビデンスレベル」と称して、その研究が根拠としてどれくらい信頼できるかを評価する基準がある.全世界共通である.あまりいい参考文献がネット上に発見できなくて恐縮だが、日経メディカルの記事(参照)が最もまとまっていた.以下引用.

4)診断
1a レベル1の診断研究のシステマティック・レビュー。複数の臨床施設を対象としたレベル1bの研究で検証されたclinical decision rule(CDR)
1b 適切な参照基準が設定された検証的コホート研究、あるいは単一の臨床施設で検証されたCDR
1c 絶対的な特異度で診断が確定できたり、絶対的な感度で診断が除外できる場合
2a レベル2の診断研究のシステマティック・レビュー
2b 適切な参照基準が設定されている探索的コホート研究。CDRの誘導のみ、あるいは妥当性が分割サンプルでしか証明されなかったCDR
3a 3b以上の研究のシステマティック・レビュー
3b 非連続研究、あるいは一貫した参照基準を用いていない研究
4 評価基準が明確でない、あるいは独立でないケースコントロール研究
5 系統的な批判的吟味を受けていない、または生理学や基礎実験、原理に基づく専門家の意見

 今回我々が検討しているのは、HPVワクチンによる神経障害や脳機能障害が起こるのかどうか、という診断上の疑問である.実験用マウスによる研究は、上記における「基礎実験」であるから、エビデンスレベルは5であり、最低である.
 低いことが悪いことではなく、基礎実験の積み上げがヒトへの応用を可能にするわけだから、その点で価値のある研究ではある.一方で、「動物実験の結果を、すぐにヒトに応用するのはダメだ」ということは理解されておくべきである.

 繰り返しになるが、エビデンスレベルが低いことは、研究の質とは別である.NF-κBノックアウトマウスにおいてHPVワクチンを接種すると中枢神経に抗体が蓄積する、という知見を得たこと自体は新規性があって(多分)いいんだけれど、それをそのまま我々の意思決定に応用するのはどうよってところに違和感を持つべきであるということである.
 各報道メディアには、科学部とかそういう専門の集団がいるはずであろうし、吟味があって良いと思うのだけれど.

 正直なところ、メディアには期待できないので、少しでも市民レベルでリテラシーが向上してほしいと思う.