2012年12月16日日曜日

Code Red and Blue — Safely Limiting Health Care's GDP Footprint より


http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1211374?
N Engl J Med. 2012 Dec 12.

 公・民の政策屋が,医療保健部門支出のGDPに占めるシェアの増大を危惧して,いろいろ考えているという話.医師たちは,医療費が増大していくことを当然視しているらしいことにも言及がある.3つの予測をしている.
 ひとつ.ドル当たりに得られる健康度(バリュー)をもっと増やすことができれば,必要となるカネは15-30%減るだろうということ.
 ふたつ.医療保健部門に関する支出が,GDPの伸びと2-3ポイント上回っていることで,経済的に逼迫しているということ.Warren Buffettが「米国経済の寄生虫」と言ったように,教育,基礎研究,インフラ整備,その他公共財への投資に手が回らなくなっている.行政はギャップを埋めるために腐心しているが,特に高齢者を中心に,より良いケアのために投資をせよという人が増えている現状がある.
 みっつ.米国の医療は仕事のやり方を新しくしなければならない.臨床家や管理者が,バリューをもっと高めるために,現状の臨床のワークフローの見直し,他領域のマネジメントツールの利用,データベースの活用,技術(特に,健康心理学health psychologyと情報・コミュニケーション・マテリアル技術)の進歩の援用をすべきである.

*
 いわゆる医療費亡国論という感じもする.GDPの伸びを上回る医療費の伸びに対する危機感,また連邦債務のかつてない伸び(第二次大戦の水準に近づく),これらが国家経済の成長を損なうという内容である.一方で斬新な(とはいえどこかで議論されていたような)点は,医療のバリューを高めることを,この問題のソリューションとして提示していることである.健康産業へのインセンティブや医療供給体制への提言に加え,米国で実際に行われるらしい医師へのインセンティブについても触れてあった.

Most approaches to persuading the health industry to create robust learning health systems strengthen incentives for improving value. Provider-directed incentives improve payments to health care providers that attain more health gain per dollar spent than they have in the past or than their peers do. Examples include Medicare's chronic illness and bundled-payment demonstrations, pay-for-performance programs launched over the past decade, and newer approaches such as accountable care organizations, bundled payments, medical homes, and hospital value-based purchasing. Some physicians will be more directly affected in January 2013, when they will receive reports from Medicare comparing them with their peers. By 2017, these comparisons will be used to modify all physicians' Medicare fees. Patient-directed incentives link the fraction of health care costs paid by patients to the extent to which they select higher-value health care providers and treatment options, including self-care.

 医師は,メディケア(の請求の範囲で,ということか?)で他の医師との競争をすることになるらしい.ほえー,なんかこわいな.
 読みすすめていくと,割と強烈に医師の態度の批判があって,「穏当だ」なんてFBしちゃったのを後悔した.米国国債の発行額は増える一方だが,野放図な医療支出を是認していては国債利率の上昇を招き,事態を悪化しかねず,連邦議会予算事務局は財政問題を重く受け止めて改善策(=この文脈では,バリューの増加)を検討している.一方で,医師は自らの収入減を憂慮してロビー活動などに勤しんでいるという話だった.
 単純な,市場原理についての話なら別にどうということはないが,医療に寄せられる期待というか,「あるべき姿」性には,正直同情の念を禁じ得ないなぁと思った.とはいえ,増大する医療費に手を付けないわけにもいかないわけで,そのあたり純粋に「合理的に」やってほしいなと思うところではある.

 偉大な,サー・ウイリアム・オスラーは次のように言ったらしい.「ケアは最大限効率的になされなければならない.それに満たないものは目の前の患者への害悪であり,患者になったかもしれない者への不正義である."Medical care must be provided with the utmost efficiency. To do less is a disservice to those we treat, and an injustice to those we might have treated."」医師はどちらの道を選ぶべきだろうか.

0 件のコメント:

コメントを投稿