2015年5月31日日曜日

「拭い液」の採取方法

 医学部で教わることは、本当にごく限られた知識である.あるいは、6年間ないし4年間(1~2年生の間は一般教養が課されることが多い)で、あれだけの医学知識を詰め込んだのが驚異的なのかもしれない.
 しかし、いずれにしても実地臨床に立つと、本当に些細なことでも「実はよく知らない」ということがある.もちろん、ぼく個人の純粋な不勉強によるものなのかもしれないが.

 小児科領域に限らず、ウイルスや細菌感染の迅速検査が必要になった際、「咽頭拭い液」や「鼻腔拭い液」などが必要になることがあるが、これらの正しい採取方法を知らなかったのでまとめておく.なお、出典はこちらである(参照 PDF).

スワブの持ち方: これも知らなかったが、ペンの様に持つと良いらしい.コツは、先端をフリーにしておくこと、すなわち相手が暴れても「突き刺さずに済む」ように持つことの様だ.確かに、子どもの場合はよく暴れる.これで鼻出血などを起こしたことはないが、心がけるに越したことはない.なお、よくあるスワブは「筒と一体化しているもの」で、この場合、持ち手の部分が存在するためペンシル持ちは難しいが、これも軽く持つ方がよいのだろう.

鼻腔拭い液: 例えばNGチューブの挿入もそうだが、基本的には鼻腔の「床」に沿わせる様に挿入する.ぼくは突き当たるまで挿入していたが、当然、年齢や大きさによって目安があるらしい.乳児は4cm、幼児は4~5cm、学童は5~6cmほど挿入し、突き当たる数mm手前を狙うと良い.また、挿入してから数秒待って、鼻汁がスワブに染みこむまで待つのが良いらしい.注として書かれているが、暴れているときはいったん手を離す、というのも面白い.

咽頭拭い液: 咽頭は、咽頭後壁、口蓋、扁桃をまんべんなく数回擦過する必要がある.すなわち十分に咽頭を視認しながら実施しなければならない.口蓋垂を跳ね上げる様に、後ろの上咽頭まで擦過する、というのもへぇという感じ.

 上記は、教科書からの出典ではないが、ある程度の参考にはなると思う.

2015年5月16日土曜日

米国小児科学会の細気管支炎のガイドライン 2014.

Clinical practice guideline: the diagnosis, management, and prevention of bronchiolitis.
Pediatrics. 2014 Nov;134(5):e1474-502. doi: 10.1542/peds.2014-2742.

診断

1a. 細気管支炎の診断および疾病重症度評価は、病歴および身体診察によって行われるべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
1b. 重症化への危険因子、すなわち生後12週未満、早産の既往、循環・呼吸系疾患の存在、免疫不全などを評価するべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
1c. 細気管支炎の診断が病歴および身体診察で行われた時は、レントゲンや血液検査はルーチンには行われるべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)

治療

2. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、アルブテロール(またはサルブタモール)の吸入を行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
3. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、エピネフリンの吸入を行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
4a. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、救急外来において、高張生食の吸入を行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
4b. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、入院中、高張生食の吸入を考慮しても良い.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Weak Recommendation [ランダム化試験における一致しない結果])
5. いかなる状況でも、ステロイドの全身投与は行うべきではない.(Evidence Quality: A; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
6a. 酸素飽和度が90%以上であれば、追加の酸素吸入は行わなくても良い.(Evidence Quality: D; Recommendation Strength: Weak Recommendation [低レベルのエビデンスおよび最初の原則に基づく])
6b. 持続酸素飽和度測定は、行わなくても良い.(Evidence Quality: D; Recommendation Strength: Weak Recommendation [低レベルのエビデンスおよび最初の原則に基づく])
7. 胸部の理学療法は行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
8. 同時に細菌感染が存在、ないしその可能性が強く疑われる場合を除いて、抗菌薬投与は行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
9. 経口での水分摂取が困難な場合は、NGチューブや経静脈的な補液を行うべきである.(Evidence Quality: X; Recommendation Strength: Strong Recommendation)

予防

10a. 在胎29週0日以上で、その他に特に既往のない児にはパリビズマブを投与すべきでない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
10b. 在胎32週0日未満の未熟児で、少なくとも生後28日の間に21%より多くの酸素を要した児で、血行動態の異常がある心疾患や慢性肺疾患を持つ場合は、生後1年間の間パリビズマブを投与すべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
10c. パリビズマブの適応のある乳児には、RSウイルスのシーズンに最大で5ヶ月の投与(15mg/kg/dose)を行うべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
11a. すべての人々は、患者に触れる前後、患者の周囲の物に触れた後、および手袋を外した後は、手指消毒を行うべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
11b. 細気管支炎の小児のケアに当たる時は、擦式アルコールによる手指消毒を行うべきである.アルコールが使用できない場合は、せっけんと流水による手指消毒をすべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
12a. 細気管支炎の評価の際は、その乳児または小児のタバコの煙への曝露の有無を聴取すべきである.(Evidence Quality: C; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
12b. 小児の細気管支炎の評価において、保護者に対してタバコの煙や、禁煙などについて助言を与えるべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
13. 呼吸器感染症の罹患率を下げるためには、少なくとも6ヶ月の完全母乳を勧めるべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
14. 臨床医および看護師は、個々人や家族に対してエビデンスに基づく細気管支炎の診断、治療および予防について教育すべきである.(Evidence Quality: C; observational studies; Recommendation Strength: Moderate Recommendation) 

2015年5月14日木曜日

肉のソースにバルサミコ酢を使う.

 旨かった.
 バルサミコ酢というのをはじめて使ったが、バターとバルサミコの香りは非常にやばいので、確実に再度やると思う.おそらくなんの肉でも合うだろう.バルサミコというのをよく知らなかったが、Wikipediaによると厳格に基準があるらしく、流通している多くのものはカラメル色素などを使用した「模造品」なのだそうだ.200mlほどで700円弱だったから、安い調味料とはいえないけれど、おそらく「模造品」の方だと思われる.まあ、旨かったからいいと思う.

 レシピは簡単で、

  • バルサミコ酢:肉の量に合わせて大さじ1〜程度
  • バター:5〜10g程度でいい
  • 醤油:小さじ1程度 少量
  • ニンニク:おろしニンニク半かけ程度がよい


以上を、肉の焼きの最後に突っ込んで、ちょっと強火で水分を飛ばせば完成.簡単だね〜.あまりに旨いのでやばいです.

2015年5月11日月曜日

小児救急部門における肺炎の予測

Prediction of pneumonia in a pediatric emergency department.
Pediatrics. 2011 Aug;128(2):246-53. doi: 10.1542/peds.2010-3367. Epub 2011 Jul 11.



 先日のER当直では、「長引く発熱」ないし「頑固な咳嗽」に加えて、「右背側肺底部領域の呼吸音減弱」があって、胸部レントゲン検査を行って、肺炎の診断に至った2例があった.重要と思われるポイントは2点あって、一つは検査閾値の問題、もう一つは身体所見の信頼性である.小児科研修を始めて間もないので、どういう症例で検査をするかというのは大きな問題である.上司曰く「明確な基準はないが3日以上の発熱には検査を加えていい」という意見もあるらしい.これは2点目の問題とも絡むのだが、小児の場合、身体所見の信頼性が低い場合もあって(例:深吸気の聴診などまずできないし、泣いていることもある)、身体所見の精度を上げづらく、検査閾値を左右するまでに至れないケースが少なくなさそうなのであった.
 このような救急外来における、肺炎予測の研究があったので、読んでみようと思う.

 この論文でも、冒頭に「none have specifically addressed the criteria for obtaining a chest radiograph(胸部レントゲン検査を行うための基準を示した研究は見当たらない)」と言っているように、どういう所見を以って胸部レントゲン検査を実施するか、といった判断基準を見出すところが主要なモチベーションとなっている.

要旨
目的:救急外来において、肺炎が疑われる患児での、病歴・身体所見とレントゲン上の肺炎の関連性を評価するための研究であり、胸部レントゲン検査を実施する臨床判断ルールの作成が目的である.
方法:近郊部の小児救急外来における21歳未満で、肺炎が疑われ胸部レントゲン検査が実施された患児に対して前向きコホート研究を実施した(n=2574).肺炎は、放射線科医による胸部レントゲン検査の読影結果により、以下の2つのグループに分類した.レントゲン上の肺炎(確診例および疑い例を含む)と、確定肺炎に分けられた.多変量ロジスティック回帰モデルにより、肺炎状態を従属変数、病歴および身体所見を独立変数として評価した.また、再帰分割分析(変数の値に基づいて対象者を逐次2分して行くことによって、高リスク者同定感度が最高になる変数の組み合わせを求める方法、詳細わからず・・・)も実施した.
結果:16%の患児がレントゲン上の肺炎を呈した.胸痛、局所性のラ音、発熱期間、トリアージ時点でのオキシメトリの値が有意な肺炎予測因子であった.頻呼吸、陥没呼吸、呻吟は肺炎との相関が認められなかった.低酸素血症(Sat<92%)は最も強い肺炎の予測因子であった(odds ratio: 3.6 [95% confidence interval (CI): 2.0–6.8]).再帰分割分析ではSat>92%、発熱の病歴なし、局所的な呼吸音減弱およびラ音なしであれば、レントゲン上の肺炎は7.6% (95% CI: 5.3–10.0)であり、確定肺炎は2.9% (95% CI: 1.4 – 4.4)であった.
結論:病歴および身体所見は、レントゲン上の肺炎のリスクの層別化に利用できるものである.



 結論として筆者は、病歴および身体所見は、ある程度のリスクの層別化には役立つ可能性があるものの、十分な検出力はないとしている.また、独立変数(説明変数)としての各項目も、完全に独立ではない可能性が高い(例えば、SpO2の値と聴診所見は、「診察者がSpO2を見ずに聴診する、というのはERとしてあり得ない」点で独立でない可能性がある)ことが指摘されている.また、本研究の対象者の組み入れ基準が「胸部レントゲン検査を行った者」となっているため、熱や咳嗽を主訴としたすべての患児を対象としていないことによる選択バイアスが存在する可能性にも触れている.

 読後感として、呼吸音減弱の検出力は、感度高め特異度低め(無気肺とかを拾う可能性)で、最終的に肺炎の診断能は低い、みたいなものなのかなと思ったり.呼吸促迫や呼吸不全のORは低いが、SpO2低下のORが高いのはちょっとよくわからない.72時間続く発熱のORが高いのは、身体所見が乏しいのに開けてみると肺炎でしたというケースが少なくないのを説明している(が、なぜ小児で症状や身体所見が出にくいのかは不明).特に最後の発熱については、経験上そうだけど、統計的にもそうなんだ、というのをよく表していて興味深いと思った.
 一方で、筆者も挙げているように「対象の組み入れ基準が胸部レントゲン検査を行ったこと」であるのが、この研究の大きな弱点となっているように思われる.一般臨床をやっていく上で、論理の流れとしては「症状、病歴、所見→検査」であって、検査が大前提となった研究にどこまで意義があるのかは議論すべきところだろう.裏を返せば、「レントゲンをするほど肺炎を疑っていた」症例が多く含まれていることが推察されるから、過大評価の危険性がある.ただでさえ大したORが出せなかったのに、これが過大評価だったとなれば研究意義が損なわれることは明白である.

 この研究の”balancing of the paper”を評価すると、「強くはない」となってしまうだろうか.