2015年5月11日月曜日

小児救急部門における肺炎の予測

Prediction of pneumonia in a pediatric emergency department.
Pediatrics. 2011 Aug;128(2):246-53. doi: 10.1542/peds.2010-3367. Epub 2011 Jul 11.



 先日のER当直では、「長引く発熱」ないし「頑固な咳嗽」に加えて、「右背側肺底部領域の呼吸音減弱」があって、胸部レントゲン検査を行って、肺炎の診断に至った2例があった.重要と思われるポイントは2点あって、一つは検査閾値の問題、もう一つは身体所見の信頼性である.小児科研修を始めて間もないので、どういう症例で検査をするかというのは大きな問題である.上司曰く「明確な基準はないが3日以上の発熱には検査を加えていい」という意見もあるらしい.これは2点目の問題とも絡むのだが、小児の場合、身体所見の信頼性が低い場合もあって(例:深吸気の聴診などまずできないし、泣いていることもある)、身体所見の精度を上げづらく、検査閾値を左右するまでに至れないケースが少なくなさそうなのであった.
 このような救急外来における、肺炎予測の研究があったので、読んでみようと思う.

 この論文でも、冒頭に「none have specifically addressed the criteria for obtaining a chest radiograph(胸部レントゲン検査を行うための基準を示した研究は見当たらない)」と言っているように、どういう所見を以って胸部レントゲン検査を実施するか、といった判断基準を見出すところが主要なモチベーションとなっている.

要旨
目的:救急外来において、肺炎が疑われる患児での、病歴・身体所見とレントゲン上の肺炎の関連性を評価するための研究であり、胸部レントゲン検査を実施する臨床判断ルールの作成が目的である.
方法:近郊部の小児救急外来における21歳未満で、肺炎が疑われ胸部レントゲン検査が実施された患児に対して前向きコホート研究を実施した(n=2574).肺炎は、放射線科医による胸部レントゲン検査の読影結果により、以下の2つのグループに分類した.レントゲン上の肺炎(確診例および疑い例を含む)と、確定肺炎に分けられた.多変量ロジスティック回帰モデルにより、肺炎状態を従属変数、病歴および身体所見を独立変数として評価した.また、再帰分割分析(変数の値に基づいて対象者を逐次2分して行くことによって、高リスク者同定感度が最高になる変数の組み合わせを求める方法、詳細わからず・・・)も実施した.
結果:16%の患児がレントゲン上の肺炎を呈した.胸痛、局所性のラ音、発熱期間、トリアージ時点でのオキシメトリの値が有意な肺炎予測因子であった.頻呼吸、陥没呼吸、呻吟は肺炎との相関が認められなかった.低酸素血症(Sat<92%)は最も強い肺炎の予測因子であった(odds ratio: 3.6 [95% confidence interval (CI): 2.0–6.8]).再帰分割分析ではSat>92%、発熱の病歴なし、局所的な呼吸音減弱およびラ音なしであれば、レントゲン上の肺炎は7.6% (95% CI: 5.3–10.0)であり、確定肺炎は2.9% (95% CI: 1.4 – 4.4)であった.
結論:病歴および身体所見は、レントゲン上の肺炎のリスクの層別化に利用できるものである.



 結論として筆者は、病歴および身体所見は、ある程度のリスクの層別化には役立つ可能性があるものの、十分な検出力はないとしている.また、独立変数(説明変数)としての各項目も、完全に独立ではない可能性が高い(例えば、SpO2の値と聴診所見は、「診察者がSpO2を見ずに聴診する、というのはERとしてあり得ない」点で独立でない可能性がある)ことが指摘されている.また、本研究の対象者の組み入れ基準が「胸部レントゲン検査を行った者」となっているため、熱や咳嗽を主訴としたすべての患児を対象としていないことによる選択バイアスが存在する可能性にも触れている.

 読後感として、呼吸音減弱の検出力は、感度高め特異度低め(無気肺とかを拾う可能性)で、最終的に肺炎の診断能は低い、みたいなものなのかなと思ったり.呼吸促迫や呼吸不全のORは低いが、SpO2低下のORが高いのはちょっとよくわからない.72時間続く発熱のORが高いのは、身体所見が乏しいのに開けてみると肺炎でしたというケースが少なくないのを説明している(が、なぜ小児で症状や身体所見が出にくいのかは不明).特に最後の発熱については、経験上そうだけど、統計的にもそうなんだ、というのをよく表していて興味深いと思った.
 一方で、筆者も挙げているように「対象の組み入れ基準が胸部レントゲン検査を行ったこと」であるのが、この研究の大きな弱点となっているように思われる.一般臨床をやっていく上で、論理の流れとしては「症状、病歴、所見→検査」であって、検査が大前提となった研究にどこまで意義があるのかは議論すべきところだろう.裏を返せば、「レントゲンをするほど肺炎を疑っていた」症例が多く含まれていることが推察されるから、過大評価の危険性がある.ただでさえ大したORが出せなかったのに、これが過大評価だったとなれば研究意義が損なわれることは明白である.

 この研究の”balancing of the paper”を評価すると、「強くはない」となってしまうだろうか. 

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