結論は、原理は不明だが、ザムストのJKバンドを利用すると症状が緩和される.根本的には大腿四頭筋群の筋トレが必要.バンドは効きますよ.
2016年4月29日金曜日
2016年4月17日日曜日
efficacy と effectiveness の違いについて
時々見かけて,これら二つは結構意味が違うんだよな~と思うんだけど,他人に説明できるほどよくわかっていないなと思ったので,再度まとめてみようと思う.
医学研究や,政策的な文脈で,efficacy と effectiveness の違いというのは意識された方が良いです.以下に,意味の違いを簡単にまとめます.
まずは,辞書的にはどうなっているか.(参考 リーダーズ英和辞典)
どうも区別は難しい.日本語のネット検索ではあまり正確な話が載っていないので,英語から引いてみると以下のような参考資料が無料で確認できた.
Technical Reviews, No. 12.
Gartlehner G, Hansen RA, Nissman D, et al.
Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2006 Apr.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK44024/
それほど長くない適度な感じだけど,面倒なのでイントロダクションのところだけ.
介入のエフィカシーとエフェクティブネスを区別する.エフィカシー研究(説明的なトライアル)ではその介入が理想的な環境下で期待する結果が得られるかどうかを調べるものである.エフェクティブネス研究(プラグマティックなトライアル)では「実際の世界」での有益な効果の度合いを測定するものである.ゆえに,エフェクティブネス研究における仮説や研究デザインは,ルーチンの臨床プラクティスや臨床判断にとって不可欠なアウトカムに基づき生成される.
つまりエフィカシーとエフェクティブネスの違いは,端的に言うと「理想環境での効果か,実際社会での効果か」の違いということになるでしょう.よく臨床スコアの研究なんかが発表されることがあるが,だいたいはまず,大学病院や基幹施設で,手技等の十分な指導を受けてから実施して,「これだけ予後が改善しました!」「これだけ検査が減らせました!」という結果を発表している.これはある意味,「理想環境」であって,それを広く一般市中病院に適応できるか(一般化できるか)については不明である.一般的な環境で調査をして明らかになるのがエフェクティブネスなのでしょう.
医学研究や,政策的な文脈で,efficacy と effectiveness の違いというのは意識された方が良いです.以下に,意味の違いを簡単にまとめます.
まずは,辞書的にはどうなっているか.(参考 リーダーズ英和辞典)
efficacy 効力,効験,効きめ英英辞書では,こんな感じ.(参考 Oxford Dictionaries)
effective ①効力のある,有効な;有力な,有能な;効果的な;強い印象を与える ②実際の,事実上の;<兵員などが>応戦体制にある
efficacy The ability to produce a desired or intended result
effectiveness The degree to which something is successful in producing a desired result; success
どうも区別は難しい.日本語のネット検索ではあまり正確な話が載っていないので,英語から引いてみると以下のような参考資料が無料で確認できた.
Technical Reviews, No. 12.
Gartlehner G, Hansen RA, Nissman D, et al.
Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2006 Apr.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK44024/
それほど長くない適度な感じだけど,面倒なのでイントロダクションのところだけ.
Clinicians and policymakers often distinguish between the efficacy and the effectiveness of an intervention. Efficacy trials (explanatory trials) determine whether an intervention produces the expected result under ideal circumstances. Effectiveness trials (pragmatic trials) measure the degree of beneficial effect under “real world” clinical settings. Hence, hypotheses and study designs of an effectiveness trial are formulated based on conditions of routine clinical practice and on outcomes essential for clinical decisions.
介入のエフィカシーとエフェクティブネスを区別する.エフィカシー研究(説明的なトライアル)ではその介入が理想的な環境下で期待する結果が得られるかどうかを調べるものである.エフェクティブネス研究(プラグマティックなトライアル)では「実際の世界」での有益な効果の度合いを測定するものである.ゆえに,エフェクティブネス研究における仮説や研究デザインは,ルーチンの臨床プラクティスや臨床判断にとって不可欠なアウトカムに基づき生成される.
つまりエフィカシーとエフェクティブネスの違いは,端的に言うと「理想環境での効果か,実際社会での効果か」の違いということになるでしょう.よく臨床スコアの研究なんかが発表されることがあるが,だいたいはまず,大学病院や基幹施設で,手技等の十分な指導を受けてから実施して,「これだけ予後が改善しました!」「これだけ検査が減らせました!」という結果を発表している.これはある意味,「理想環境」であって,それを広く一般市中病院に適応できるか(一般化できるか)については不明である.一般的な環境で調査をして明らかになるのがエフェクティブネスなのでしょう.
2016年4月16日土曜日
福島の甲状腺がんの動向についての話
昨年の津田先生の論文は、非常に大きな物議を醸した点で有益であったと思うし、県・国が集めたデータをまともに集計・解析して、英語で世界に発信した点で重要だったと思う.データがあっても解析しない・国内のみにとどめておくということをしているのはよくないのでね.
こうやって公にしたからこそいろんな批判・議論できる.主だった批判をメモ的にまとめておこう.
だいたい批判の対象になっているのは、以下のようなものにまとめられるだろう.
潜伏期間が 4 年だというのは、確かに短すぎる印象を持つのは主観的には事実なのだけど、その「4 年」の比較対象がこの世に存在しなくて、CDC の推計は上のように発表されているので、その推計に対する批判をするのが合理的と思われる.この推計、どうやったのかよくわからないけれど.
すなわち、「4 年であるという根拠もないんだが、4 年じゃないというのは一体何を根拠に言ってるの?」ということになる.剖検で 3 割以上に甲状腺がんがあったという報告があるらしいけど、小児の話ではないので無効でしょうから、意味のある批判になっていないと思う.
2. について.これについても、比較がないのでどうしてそんなに批判できるのかよくわからないんだけど.韓国でのスクリーニングの報告(参照)は結構有名で、かつスクリーニングの意義を問う重要な報告でした.これを根拠に、スクリーニング効果を言っているに過ぎないのでは、という批判がある.また、韓国の報告ではスクリーニング対象がかなり低く(10% 台)、スクリーニングのカバー範囲が増えるとそれだけ、甲状腺がんと診断される率は上がるとのことで、福島のスクリーニングは 8 割前後のカバー範囲のため、韓国の報告(約 15 倍)よりはるかに高い 50 倍だって、スクリーニング効果の範囲内でしょうということ.
これについてはその通りかなとも思う反面、わからないところもある.カバーが広がると incidence も上昇するということが観察されたらしいが、それがよくわからない.スクリーニング対象がほとんどランダム(つまり、甲状腺がんが多そうな人口を選んでいるわけではない)であれば、真の甲状腺がん罹患割合は不変のはずで、スクリーニング陽性割合も変化がないのじゃないかと思うんだけど、どうなんだろうか.
あと、この文章って単なる(といっては失礼である.NEJM だから!)Perspective の一記事であるためか、年齢別のデータもないし、査読も入ってるのかよくわからないんだけど、それって議論の比較根拠としてどこまで有効なんでしょうかね.
3. は当然ダメだと思うんだけどw このへんは津田先生もわかってやったんじゃないかと思う.というか、前述の韓国の例も、「15 倍」というのは、スクリーニング前 vs スクリーニング後なので、症状ありで検査して診断されたやつ vs 無症状でスクリーニングにより発見されたやつの比較になっています.そういう意味では同じ舞台で戦っているとも言えなくないな!それっていいのか、NEJM も許したからいいのかな・・・.
韓国の発表は採用して、津田先生のだけは 3. について批判するっていうのは普通にダブルスタンダードでよくわからないなと思う.
ちなみに上述の通り、韓国の報告は全年齢人口での話なので、今回の津田先生の発表は小児のみを対象としているから、同じ俎上には載せられないのは当然でしょう.甲状腺がんが最も多い年齢は 60 歳台以降ですしね(参照).
あと余談ですが、「エコーの技術革新による過剰診断じゃないの」という話があるが、まあこれはやってみるとわかるんだけど、甲状腺エコーはかなり簡単な検査なので、5mm という大きさなら本当に余裕で見つけられると思う.確かに最近のエコーはめちゃくちゃきれいに見れるんだけど、それが生きるのは心エコーとか腸管エコーとかではなかろうか.現に、自分が勤めてる病院では20年以上前のエコーがあるけど、普通に腎臓とかきれいに見れますよ.まあ、エビデンスの話しているのになんでこういう当てずっぽうな批判が混じってるのかよくわからんけど.
4. について.甲状腺がんは確かに予後良好らしい.頸部腫瘍の教科書では以下のように記述されている(以下、乳頭がんについて述べている 参考:Cummings Otolaryngology Sixth Edition).
いろいろと議論をすることは、知見の整理になるし、興味深いことでもある.一方で我々医療従事者がこういう知見をどのように利用していくかということも考えたほうがよい.「放射線って子どもの甲状腺がんを増やすんじゃないの?」という疑問に立脚して、より安全な立ち振る舞いを考えたいというのが根本にある調査である.スクリーニング効果を放射線の効果だと混同して、危険を煽ることはよくないことなんだけど、でもオンゴーイングに起こっている健康問題について、「完璧な調査」はそもそも無理なんだと思う.また、研究仮説というのもそもそも「価値中立ではない」ことを理解しないといけない.批判ばかりをしていると、何かと中立であるべきと思ってしまうし、できれば中立なのがいいのかもしれないが、仮説を立てる段階で「放射線って甲状腺に悪いのでは?」と思わなきゃ始まらない研究だと思う.抗菌薬の適正利用、とか、人工呼吸器の正しい利用、とかいうのは、価値判断をしなくて済むので(どう考えても正しい話なので)、深く悩まなくて済むんだよなあ.
津田先生の教室は、そもそもが水俣やカネミ油症などの公害などなどの疫学調査に端を発した教室で、医学会が「水俣の汚染と人々の健康被害の因果関係は定かではない」と言い続けたせいで、みすみす被害を増やしたという歴史に根ざした研究をやっているところです.当然、この教室が発表する研究は価値中立的ではないと思う.こういった価値観に関する議論は副次的だと思うので(すなわち、津田先生自身の考え方や発言の仕方を批判することは本質的でないと思うので)、そのへんは抜きに批判的吟味することが有益だと思いました.
こうやって公にしたからこそいろんな批判・議論できる.主だった批判をメモ的にまとめておこう.
- 福島甲状腺がん罹患率50倍に関するレビュー(試論) - ビーストの日記(参照)
- Epidemiology誌の津田敏秀氏の甲状腺癌の論文について : EARLの医学ノート(参照)
- 「福島の甲状腺がん50倍」論文に専門家が騒がないわけ(上) : Global Energy Policy Research(参照)
だいたい批判の対象になっているのは、以下のようなものにまとめられるだろう.
- 甲状腺がんの潜伏期間が4年というのは妥当か.
- 「甲状腺がんが 30-50 倍」はスクリーニング効果ではないか.
- external comparison の対象として、「国がんの甲状腺がん罹患率」を用いているがそれは妥当か(発症とスクリーニングによる診断の違い).
- 甲状腺がん、特に乳頭がんは予後良好なのでスクリーニングすることが間違い.
D. Thyroid Cancer上記では、潜伏期間に関する直接的な報告がないため、統計的な推定による潜伏期間を計算し、最小の潜伏期間は 2.5 年としている.なお最後の方に「20 歳未満に関しては〜」というくだりがあるが、20 歳未満の小児がんについても後述してあるが甲状腺がんについての直接的な記述はない.
For thyroid cancer, direct observations or estimates of latency for 9/11 agents (Latency Method 1) or other agents (Latency Method 3) are not available in the literature. Also, the Administrator was unable to find recommendations on minimum latency from other authoritative sources [Latency Method 2]. Therefore, the Administrator has decided to rely on estimates of minimum latency based on the statistical modeling of risk for associations between exposure to low-level ionizing radiation and thyroid cancer of 2.5 years [Latency Method 4B]. Therefore, based on the best available scientific evidence and following the methodology presented in this revised White Paper on Minimum Latency and Types or Categories of Cancer, the Administrator selected a minimum latency of 2.5 years for use in the evaluation of a case of thyroid cancer for certification in the WTC Health Program. For a cancer occurring in a person less than 20 years of age, see Section III,E.
潜伏期間が 4 年だというのは、確かに短すぎる印象を持つのは主観的には事実なのだけど、その「4 年」の比較対象がこの世に存在しなくて、CDC の推計は上のように発表されているので、その推計に対する批判をするのが合理的と思われる.この推計、どうやったのかよくわからないけれど.
すなわち、「4 年であるという根拠もないんだが、4 年じゃないというのは一体何を根拠に言ってるの?」ということになる.剖検で 3 割以上に甲状腺がんがあったという報告があるらしいけど、小児の話ではないので無効でしょうから、意味のある批判になっていないと思う.
2. について.これについても、比較がないのでどうしてそんなに批判できるのかよくわからないんだけど.韓国でのスクリーニングの報告(参照)は結構有名で、かつスクリーニングの意義を問う重要な報告でした.これを根拠に、スクリーニング効果を言っているに過ぎないのでは、という批判がある.また、韓国の報告ではスクリーニング対象がかなり低く(10% 台)、スクリーニングのカバー範囲が増えるとそれだけ、甲状腺がんと診断される率は上がるとのことで、福島のスクリーニングは 8 割前後のカバー範囲のため、韓国の報告(約 15 倍)よりはるかに高い 50 倍だって、スクリーニング効果の範囲内でしょうということ.
これについてはその通りかなとも思う反面、わからないところもある.カバーが広がると incidence も上昇するということが観察されたらしいが、それがよくわからない.スクリーニング対象がほとんどランダム(つまり、甲状腺がんが多そうな人口を選んでいるわけではない)であれば、真の甲状腺がん罹患割合は不変のはずで、スクリーニング陽性割合も変化がないのじゃないかと思うんだけど、どうなんだろうか.
あと、この文章って単なる(といっては失礼である.NEJM だから!)Perspective の一記事であるためか、年齢別のデータもないし、査読も入ってるのかよくわからないんだけど、それって議論の比較根拠としてどこまで有効なんでしょうかね.
3. は当然ダメだと思うんだけどw このへんは津田先生もわかってやったんじゃないかと思う.というか、前述の韓国の例も、「15 倍」というのは、スクリーニング前 vs スクリーニング後なので、症状ありで検査して診断されたやつ vs 無症状でスクリーニングにより発見されたやつの比較になっています.そういう意味では同じ舞台で戦っているとも言えなくないな!それっていいのか、NEJM も許したからいいのかな・・・.
韓国の発表は採用して、津田先生のだけは 3. について批判するっていうのは普通にダブルスタンダードでよくわからないなと思う.
ちなみに上述の通り、韓国の報告は全年齢人口での話なので、今回の津田先生の発表は小児のみを対象としているから、同じ俎上には載せられないのは当然でしょう.甲状腺がんが最も多い年齢は 60 歳台以降ですしね(参照).
あと余談ですが、「エコーの技術革新による過剰診断じゃないの」という話があるが、まあこれはやってみるとわかるんだけど、甲状腺エコーはかなり簡単な検査なので、5mm という大きさなら本当に余裕で見つけられると思う.確かに最近のエコーはめちゃくちゃきれいに見れるんだけど、それが生きるのは心エコーとか腸管エコーとかではなかろうか.現に、自分が勤めてる病院では20年以上前のエコーがあるけど、普通に腎臓とかきれいに見れますよ.まあ、エビデンスの話しているのになんでこういう当てずっぽうな批判が混じってるのかよくわからんけど.
4. について.甲状腺がんは確かに予後良好らしい.頸部腫瘍の教科書では以下のように記述されている(以下、乳頭がんについて述べている 参考:Cummings Otolaryngology Sixth Edition).
Long-term follow-up is monitored with thyroglobulin levels, physical examinations, and ultrasound. The long-term prognosis is excellent, and survival rates are greater than 95%. However, children under 10 years of age have a higher risk of recurrence and mortality. Other risk factors for recurrence include positive family history of thyroid cancer, large tumors, and extracapsular invasion.ちなみにこれは、小児の甲状腺がんの章での記述.大人に関しては
Most patients with papillary carcinoma do well regardless of treatment.一行目からこんな感じなので、ノリが違うことがわかる.まあそもそも、どんなに発育速度が遅くても、子供と大人では平均余命が当然違うわけで、「予後良好」の定義が違うんですよね.予後良好だから過剰診断だ、という批判は、小児に関しても言えるのかな?
いろいろと議論をすることは、知見の整理になるし、興味深いことでもある.一方で我々医療従事者がこういう知見をどのように利用していくかということも考えたほうがよい.「放射線って子どもの甲状腺がんを増やすんじゃないの?」という疑問に立脚して、より安全な立ち振る舞いを考えたいというのが根本にある調査である.スクリーニング効果を放射線の効果だと混同して、危険を煽ることはよくないことなんだけど、でもオンゴーイングに起こっている健康問題について、「完璧な調査」はそもそも無理なんだと思う.また、研究仮説というのもそもそも「価値中立ではない」ことを理解しないといけない.批判ばかりをしていると、何かと中立であるべきと思ってしまうし、できれば中立なのがいいのかもしれないが、仮説を立てる段階で「放射線って甲状腺に悪いのでは?」と思わなきゃ始まらない研究だと思う.抗菌薬の適正利用、とか、人工呼吸器の正しい利用、とかいうのは、価値判断をしなくて済むので(どう考えても正しい話なので)、深く悩まなくて済むんだよなあ.
津田先生の教室は、そもそもが水俣やカネミ油症などの公害などなどの疫学調査に端を発した教室で、医学会が「水俣の汚染と人々の健康被害の因果関係は定かではない」と言い続けたせいで、みすみす被害を増やしたという歴史に根ざした研究をやっているところです.当然、この教室が発表する研究は価値中立的ではないと思う.こういった価値観に関する議論は副次的だと思うので(すなわち、津田先生自身の考え方や発言の仕方を批判することは本質的でないと思うので)、そのへんは抜きに批判的吟味することが有益だと思いました.
2016年4月11日月曜日
インフルエンザ予防行動とその効果
3月の小児科学会雑誌に面白い研究が載っていた.
園児,学童におけるインフルエンザ予防行動実践状況とその効果
日本小児科学会雑誌,120巻3号,612-622,2016年
http://www.jpeds.or.jp/journal/abstract/120-03.html#120030612
対象となったのは佐渡島の園児・児童で,幼稚園・保育園に通園している全園児(2009/10 シーズン:1904人,2011/12 シーズン:1905人),及び小学校に通学中の全児童(2009/10 シーズン:2949人,2011/12 シーズン:2650人)であった.
調査方法は,無記名回答式アンケートで,記載者は保護者,項目は,「年齢,現在の通園通学施設名,3月時点の通園通学施設名,インフルエンザ発症の有無,発症と判断した理由,型,時期,ワクチン接種の有無,主な予防行動実践状況,学級等閉鎖(学年閉鎖,休校,休園措置を含む)の有無,閉鎖中の外出状況」だった.予防行動は,具体的にはうがい,石けん手洗い,手指消毒,こまめな手洗い,人混み避ける,マスク着用,外出抑制の7項目が設定された.
結果は,アンケート回収率は全体で 93.9% であった.ワクチン接種率は,2009/10 シーズンでは 59.3% ,2010/11 シーズンでは 63.5% であった.また,ロジスティック重回帰分析によるインフルエンザワクチン接種および予防行動のインフルエンザ発症に対する効果は,以下のようであった(値は,OR, 95%信頼区間の順).
ワクチン接種は明確な予防効果がみられた.その効果は,2009/10 シーズンと2010/11 シーズンとでは比較的差があったようである.一方で予防行動は,「こまめな手洗い」でリスク低減効果がみられた以外に効果的なものはないという結果だった..一方で「マスク着用」や「外出抑制」については,「実践するとリスクが上がる」という結果が得られた.また,「こまめな手洗い」の実践率は23%と低いのが現状であり,必要性の周知が重要との筆者の意見もあった.また,学級等閉鎖時の外出の有無と外出先に関しては,学級閉鎖時に外出した園児・児童は約3割であり,多くはショッピングセンターへの外出をしていたという結果だった.
この研究の,筆者らの仮説は,インフルエンザの予防行動が,発症を実際に抑制すること,であったと読むことができる.すでに効果が知られている「手指消毒」「咳エチケット」等(注1, 2)の他に,日本で良く推奨される「うがい」を含め,それぞれの実践が予防に役立つかどうかについて調べている.
研究手法は,アンケートによる後ろ向き調査と,多変量解析(ロジスティック回帰分析)による影響度の評価を行っている.後ろ向き調査であり,アンケートを用いていることもあって,因果関係の存在の検証が必要となるが,アンケートの紙面上の制約もあってか,「(予防行動の)時期を詳細に問診する」ものとはなっていないようである.
研究対象は,佐渡島の対象となる園児・児童であり,アンケート回収率も高く,選択バイアスがむやみに入り込む余地はないように思われる.複数年の調査であり,年度によるランダム性の排除も意識されている.
データの収集については,アンケートで可能な範囲内で行われている.アンケート項目の,「石けん手洗い」「手指消毒」「こまめな手洗い」は,それぞれ重複がありそうであった.アンケートは基本的に自己申告制であるため,信頼性については疑問が生じる.また,予防行動については交絡因子の調整が困難だろう.予防行動として挙げられた7項目について尋ねてはいるものの,具体的な行動に表れない予防的実践,あるいは予防意識のようなものが効果を持つ可能性もある.そのあたりは,根本的には計測できないもののように思われる.その他,交絡因子として両親の学力レベルや収入,家族形態,共働きか否かなども影響はありそう
全体として,多いnと高いアンケート回収率,地域網羅性があり,質の高い調査だと感じられた.根拠のある予防行動が「こまめな手洗い」であると言える状況であり,社会政策的にもさらなる手洗いの推奨すべきということになるだろう.うがいやマスク着用は,効果は認められなかった結果であり,手洗いに集中すべきということなのだろう.ワクチンの有効性は言わずもがなという状況であった.
注1 Preventing the Flu: Good Health Habits Can Help Stop Germs | Seasonal Influenza (Flu) | CDC http://www.cdc.gov/flu/protect/habits.htm
注2 インフルエンザQ&A|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
園児,学童におけるインフルエンザ予防行動実践状況とその効果
日本小児科学会雑誌,120巻3号,612-622,2016年
http://www.jpeds.or.jp/journal/abstract/120-03.html#120030612
対象となったのは佐渡島の園児・児童で,幼稚園・保育園に通園している全園児(2009/10 シーズン:1904人,2011/12 シーズン:1905人),及び小学校に通学中の全児童(2009/10 シーズン:2949人,2011/12 シーズン:2650人)であった.
調査方法は,無記名回答式アンケートで,記載者は保護者,項目は,「年齢,現在の通園通学施設名,3月時点の通園通学施設名,インフルエンザ発症の有無,発症と判断した理由,型,時期,ワクチン接種の有無,主な予防行動実践状況,学級等閉鎖(学年閉鎖,休校,休園措置を含む)の有無,閉鎖中の外出状況」だった.予防行動は,具体的にはうがい,石けん手洗い,手指消毒,こまめな手洗い,人混み避ける,マスク着用,外出抑制の7項目が設定された.
結果は,アンケート回収率は全体で 93.9% であった.ワクチン接種率は,2009/10 シーズンでは 59.3% ,2010/11 シーズンでは 63.5% であった.また,ロジスティック重回帰分析によるインフルエンザワクチン接種および予防行動のインフルエンザ発症に対する効果は,以下のようであった(値は,OR, 95%信頼区間の順).
2009/10
|
2010/11
| |
ワクチン接種
|
0.28, 0.24-0.32
|
0.79, 0.69-0.91
|
うがい
|
1.11, 0.98-1.26
|
1.16, 1.01-1.32
|
石けん手洗い
|
1.05, 0.93-1.19
|
1.06, 0.93-1.21
|
手指消毒
|
1.05, 0.84-1.22
|
1.06, 0.97-1.62
|
こまめな手洗い
|
0.81, 0.69-0.93
|
0.84, 0.71-0.99
|
人混み避ける
|
1.16, 0.95-1.40
|
1.28, 1.02-1.61
|
マスク着用
|
1.26, 1.05-1.51
|
1.50, 1.17-1.93
|
外出抑制
|
1.44, 1.19-1.75
|
1.55, 1.21-1.99
|
ワクチン接種は明確な予防効果がみられた.その効果は,2009/10 シーズンと2010/11 シーズンとでは比較的差があったようである.一方で予防行動は,「こまめな手洗い」でリスク低減効果がみられた以外に効果的なものはないという結果だった..一方で「マスク着用」や「外出抑制」については,「実践するとリスクが上がる」という結果が得られた.また,「こまめな手洗い」の実践率は23%と低いのが現状であり,必要性の周知が重要との筆者の意見もあった.また,学級等閉鎖時の外出の有無と外出先に関しては,学級閉鎖時に外出した園児・児童は約3割であり,多くはショッピングセンターへの外出をしていたという結果だった.
この研究の,筆者らの仮説は,インフルエンザの予防行動が,発症を実際に抑制すること,であったと読むことができる.すでに効果が知られている「手指消毒」「咳エチケット」等(注1, 2)の他に,日本で良く推奨される「うがい」を含め,それぞれの実践が予防に役立つかどうかについて調べている.
研究手法は,アンケートによる後ろ向き調査と,多変量解析(ロジスティック回帰分析)による影響度の評価を行っている.後ろ向き調査であり,アンケートを用いていることもあって,因果関係の存在の検証が必要となるが,アンケートの紙面上の制約もあってか,「(予防行動の)時期を詳細に問診する」ものとはなっていないようである.
研究対象は,佐渡島の対象となる園児・児童であり,アンケート回収率も高く,選択バイアスがむやみに入り込む余地はないように思われる.複数年の調査であり,年度によるランダム性の排除も意識されている.
データの収集については,アンケートで可能な範囲内で行われている.アンケート項目の,「石けん手洗い」「手指消毒」「こまめな手洗い」は,それぞれ重複がありそうであった.アンケートは基本的に自己申告制であるため,信頼性については疑問が生じる.また,予防行動については交絡因子の調整が困難だろう.予防行動として挙げられた7項目について尋ねてはいるものの,具体的な行動に表れない予防的実践,あるいは予防意識のようなものが効果を持つ可能性もある.そのあたりは,根本的には計測できないもののように思われる.その他,交絡因子として両親の学力レベルや収入,家族形態,共働きか否かなども影響はありそう
全体として,多いnと高いアンケート回収率,地域網羅性があり,質の高い調査だと感じられた.根拠のある予防行動が「こまめな手洗い」であると言える状況であり,社会政策的にもさらなる手洗いの推奨すべきということになるだろう.うがいやマスク着用は,効果は認められなかった結果であり,手洗いに集中すべきということなのだろう.ワクチンの有効性は言わずもがなという状況であった.
注1 Preventing the Flu: Good Health Habits Can Help Stop Germs | Seasonal Influenza (Flu) | CDC http://www.cdc.gov/flu/protect/habits.htm
注2 インフルエンザQ&A|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
2016年4月1日金曜日
疫学と公衆衛生学の違いとは
興味深い記事を読んだ.
(核の神話:21)低線量被ばくリスク、どう向き合うか(参照)
疫学者 津田氏と、相馬市の診療所で内科所長を勤められている 越智氏の対談風の何か.司会とコメンテーター2人という構成なので、本来的にはコメンテーター同士の議論を盛り込むつもりだったんだと思うが、どうも二人とも噛み合っていない.推察するに、
などの理由があろう.1. はまあ、パーソナリティの問題というか、津田氏はもともとかなりの天才肌であり、かつ独特の話し方をする方である.癖がわかればそんなもんかと思えるかもしれないが、初対面で話すには苦労するかもしれない.2. については、割に致命的な問題だと感じるので以下に少々書いてみることにする.
まず、越智氏の以下の一言.
対話の内容に戻るが,今、「低線量被曝をしても問題ない」という誤った認識を変えるべきだというのが津田氏の主張であり、それ以上でも以下でもない.
以下の発言も、気になるところである.
話全体を通じて、確かに津田氏の発言は現場感のないものに聞こえるし、終始「低線量被曝と発がん」という内容にのみ触れているため、「温かみがない」などという感想を抱かれるかもしれない.一方で、越智氏はここの症例ベースで、地域住民に対する配慮に満ちた発言が多く見られる.しかし、越智氏のあり方が「公衆衛生学を表している」かというと、首肯できるものではない.そのような、見た目には正しそうだが実情よくわからん、といった状況下で、良さそうなことが実際良いかどうかはわからない、というのが我々医師の苦い経験でもあり、良さそうなことも疑って、良いなら良いという理由を作り上げ、敷衍可能な形にすることが科学的な態度なのではないだろうか.「科学がすべてじゃない」のは百も承知である.
津田氏の教室はもともと、熊本の水俣や、ヒ素ミルクなどの公害事件に関し、疫学調査を進めて検討を行う中で、「オンゴーイングな社会問題の中で、疫学がスピード感を持って科学的根拠を示し、保健衛生行政の意思決定を補助しないと、水俣と同じ轍を踏むことになる」という問題意識の元に研鑽している教室である.そういう意味で、今回の福島原発事故の件を危惧していて、早期の情報発信を行っているのである.
どっちつかずのことを言い続けて住民の判断の拠り所を不明瞭にすることより、限られた範囲であるが科学でリスクを明確化することで、判断材料の一つとして役立ててもらう事の方が有益と感じるが、どうだろうか.
(核の神話:21)低線量被ばくリスク、どう向き合うか(参照)
疫学者 津田氏と、相馬市の診療所で内科所長を勤められている 越智氏の対談風の何か.司会とコメンテーター2人という構成なので、本来的にはコメンテーター同士の議論を盛り込むつもりだったんだと思うが、どうも二人とも噛み合っていない.推察するに、
- 津田氏はかなり変な人である(これは喋ってみるとわかる)
- 越智氏が疫学を理解していない節がある
- 司会が疫学ないし公衆衛生学を理解していない
などの理由があろう.1. はまあ、パーソナリティの問題というか、津田氏はもともとかなりの天才肌であり、かつ独特の話し方をする方である.癖がわかればそんなもんかと思えるかもしれないが、初対面で話すには苦労するかもしれない.2. については、割に致命的な問題だと感じるので以下に少々書いてみることにする.
まず、越智氏の以下の一言.
これは疫学と公衆衛生学の考え方の違いなんですね。福島で起きている健康被害は放射能で起きているよりもはるかに大きく、緊急性の高いものです。ひとつは避難行動による健康被害。これは起きてしまったことなんですけど、病院避難っていっても、対策本部では病院の避難先を決められる人がいませんでした。病院スタッフは自分個人のつてで電話して、そこに何人送るからって必死で電話したうえで、車も入ってこないので、不十分な装備のまま、バスなどでみなさんを避難させたわけです。長距離移動や急激な環境変化に耐えられない、あるいは看護師さんも足りないですから、不十分な申し送りによって相当の健康被害が出ました。こういう発言が、インペリアルスクールカレッジオブロンドン卒の、おそらくMPH持ちの方から出るのが大変興味深いと思う.「疫学と公衆衛生学の違い」という指摘は完全に誤りで、単に「何を議論としているか」の違いにすぎない.「低線量被曝のがんに対するリスク」の議論中に、「でも、避難の手順が悪くて云々」「家に閉じこもっている方がリスクが高くて云々」という話に展開しようとしているだけということである.津田氏は、「低線量被曝にリスクがないという、旧来のしきい値理論、あるいは誤った言説に対して、それが誤りであることを認めた上で、被曝の詳細な情報を提供した上で、住民にどう判断させるか」を問題としている.もちろん、金銭的、心情的理由で故郷に留まりたい方もおられるだろう.そこにどういう支援をしていくかは、社会がその正義に従って検討する課題である.越智氏はのちに、「リスクは相対的である」のような旨の発言をするが、言葉を補えば、それぞれの選択肢に伴うリスクとベネフィットを比較考慮して、各々のベターと思う選択肢を選びつづけることが,生きていくことに他ならない.そのリスクの中には、定量化できるものとそうでないものとがあって、医学的に重要なテーマについてはそれらが徐々に定量化されつつあるのである.小児における低線量被曝の甲状腺癌に対するリスクも、今回明らかになりつつあるだろう.その定量化されたリスクと、まだ定量化されないリスクとをすべて勘案して、ベターな選択肢を選んでいくのである.越智氏は,「疫学と公衆衛生学の違い」と言っているが,恐らく「ミクロとマクロの視点の違い」のような意味合いで使用しているものと思う.しかし,これらの二つの学問は直接比較できない全く異質なものであり,扇風機と洗濯機を比較するようなものである.公衆衛生学は疫学の知見に基づいて,それぞれの施策の是非を問うものではないだろうか.
対話の内容に戻るが,今、「低線量被曝をしても問題ない」という誤った認識を変えるべきだというのが津田氏の主張であり、それ以上でも以下でもない.
以下の発言も、気になるところである.
私も「no threshold(しきい値なし)」仮説は正しいと思いますし、100ミリシーベルトっていうのは昔のデータですから、日本みたいにこれだけ健康大国になってきたら、100ミリシーベルトがしきい値だとは、やっぱり思わない。これに関しても、不正確な認識だと思うので、以下にICRPが発行するレポートの一部を抜粋する(ICRP: Draft report: Low-dose Extrapolation of Radiation-Related Cancer Risk 参照)
There is no direct evidence, from either epidemiological or experimental carcinogenesis studies, that radiation exposure at doses on the order of 1 mGy or less is carcinogenic, nor would any be expected because of the considerations outlined in Conclusion 1. There is, however, epidemiological evidence, unlikely on the wholel to be an artifact of random variation, linking increased cancer risk to exposures at doses on the order of 10 mGy. This evidence includes several case-control studies of leukemia and solid cancers among different populations of children exposed in utero to x-ray pelvimetry, cohort studies of breast cancer among women given multiple fluoroscopy examinations during treatment for tuberculosis or scoliosis, with average breast doses on the order of 10 mGy per examination, and the observation that risk of mortality and morbidity among atomic bomb survivors from all solid cancers combined is linear in radiation dose down to about 100 mGy.ICRPが2004年に出したレポートで、すでに「1 mGy レベルでは発ガン性は判然としないが、10 mGy レベルではがんのリスク増大と被曝の関連性が見られる」という記載がある.ICRPが信じられない、という方にはさらなる説得ができないが、権威ある国際機関が2004年の時点でこのように指摘しているわけだから、「〜とは思わない」のような個人的意見のレベルではない.
話全体を通じて、確かに津田氏の発言は現場感のないものに聞こえるし、終始「低線量被曝と発がん」という内容にのみ触れているため、「温かみがない」などという感想を抱かれるかもしれない.一方で、越智氏はここの症例ベースで、地域住民に対する配慮に満ちた発言が多く見られる.しかし、越智氏のあり方が「公衆衛生学を表している」かというと、首肯できるものではない.そのような、見た目には正しそうだが実情よくわからん、といった状況下で、良さそうなことが実際良いかどうかはわからない、というのが我々医師の苦い経験でもあり、良さそうなことも疑って、良いなら良いという理由を作り上げ、敷衍可能な形にすることが科学的な態度なのではないだろうか.「科学がすべてじゃない」のは百も承知である.
津田氏の教室はもともと、熊本の水俣や、ヒ素ミルクなどの公害事件に関し、疫学調査を進めて検討を行う中で、「オンゴーイングな社会問題の中で、疫学がスピード感を持って科学的根拠を示し、保健衛生行政の意思決定を補助しないと、水俣と同じ轍を踏むことになる」という問題意識の元に研鑽している教室である.そういう意味で、今回の福島原発事故の件を危惧していて、早期の情報発信を行っているのである.
どっちつかずのことを言い続けて住民の判断の拠り所を不明瞭にすることより、限られた範囲であるが科学でリスクを明確化することで、判断材料の一つとして役立ててもらう事の方が有益と感じるが、どうだろうか.
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