園児,学童におけるインフルエンザ予防行動実践状況とその効果
日本小児科学会雑誌,120巻3号,612-622,2016年
http://www.jpeds.or.jp/journal/abstract/120-03.html#120030612
対象となったのは佐渡島の園児・児童で,幼稚園・保育園に通園している全園児(2009/10 シーズン:1904人,2011/12 シーズン:1905人),及び小学校に通学中の全児童(2009/10 シーズン:2949人,2011/12 シーズン:2650人)であった.
調査方法は,無記名回答式アンケートで,記載者は保護者,項目は,「年齢,現在の通園通学施設名,3月時点の通園通学施設名,インフルエンザ発症の有無,発症と判断した理由,型,時期,ワクチン接種の有無,主な予防行動実践状況,学級等閉鎖(学年閉鎖,休校,休園措置を含む)の有無,閉鎖中の外出状況」だった.予防行動は,具体的にはうがい,石けん手洗い,手指消毒,こまめな手洗い,人混み避ける,マスク着用,外出抑制の7項目が設定された.
結果は,アンケート回収率は全体で 93.9% であった.ワクチン接種率は,2009/10 シーズンでは 59.3% ,2010/11 シーズンでは 63.5% であった.また,ロジスティック重回帰分析によるインフルエンザワクチン接種および予防行動のインフルエンザ発症に対する効果は,以下のようであった(値は,OR, 95%信頼区間の順).
2009/10
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2010/11
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ワクチン接種
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0.28, 0.24-0.32
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0.79, 0.69-0.91
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うがい
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1.11, 0.98-1.26
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1.16, 1.01-1.32
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石けん手洗い
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1.05, 0.93-1.19
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1.06, 0.93-1.21
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手指消毒
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1.05, 0.84-1.22
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1.06, 0.97-1.62
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こまめな手洗い
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0.81, 0.69-0.93
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0.84, 0.71-0.99
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人混み避ける
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1.16, 0.95-1.40
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1.28, 1.02-1.61
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マスク着用
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1.26, 1.05-1.51
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1.50, 1.17-1.93
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外出抑制
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1.44, 1.19-1.75
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1.55, 1.21-1.99
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ワクチン接種は明確な予防効果がみられた.その効果は,2009/10 シーズンと2010/11 シーズンとでは比較的差があったようである.一方で予防行動は,「こまめな手洗い」でリスク低減効果がみられた以外に効果的なものはないという結果だった..一方で「マスク着用」や「外出抑制」については,「実践するとリスクが上がる」という結果が得られた.また,「こまめな手洗い」の実践率は23%と低いのが現状であり,必要性の周知が重要との筆者の意見もあった.また,学級等閉鎖時の外出の有無と外出先に関しては,学級閉鎖時に外出した園児・児童は約3割であり,多くはショッピングセンターへの外出をしていたという結果だった.
この研究の,筆者らの仮説は,インフルエンザの予防行動が,発症を実際に抑制すること,であったと読むことができる.すでに効果が知られている「手指消毒」「咳エチケット」等(注1, 2)の他に,日本で良く推奨される「うがい」を含め,それぞれの実践が予防に役立つかどうかについて調べている.
研究手法は,アンケートによる後ろ向き調査と,多変量解析(ロジスティック回帰分析)による影響度の評価を行っている.後ろ向き調査であり,アンケートを用いていることもあって,因果関係の存在の検証が必要となるが,アンケートの紙面上の制約もあってか,「(予防行動の)時期を詳細に問診する」ものとはなっていないようである.
研究対象は,佐渡島の対象となる園児・児童であり,アンケート回収率も高く,選択バイアスがむやみに入り込む余地はないように思われる.複数年の調査であり,年度によるランダム性の排除も意識されている.
データの収集については,アンケートで可能な範囲内で行われている.アンケート項目の,「石けん手洗い」「手指消毒」「こまめな手洗い」は,それぞれ重複がありそうであった.アンケートは基本的に自己申告制であるため,信頼性については疑問が生じる.また,予防行動については交絡因子の調整が困難だろう.予防行動として挙げられた7項目について尋ねてはいるものの,具体的な行動に表れない予防的実践,あるいは予防意識のようなものが効果を持つ可能性もある.そのあたりは,根本的には計測できないもののように思われる.その他,交絡因子として両親の学力レベルや収入,家族形態,共働きか否かなども影響はありそう
全体として,多いnと高いアンケート回収率,地域網羅性があり,質の高い調査だと感じられた.根拠のある予防行動が「こまめな手洗い」であると言える状況であり,社会政策的にもさらなる手洗いの推奨すべきということになるだろう.うがいやマスク着用は,効果は認められなかった結果であり,手洗いに集中すべきということなのだろう.ワクチンの有効性は言わずもがなという状況であった.
注1 Preventing the Flu: Good Health Habits Can Help Stop Germs | Seasonal Influenza (Flu) | CDC http://www.cdc.gov/flu/protect/habits.htm
注2 インフルエンザQ&A|厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
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