2015年6月17日水曜日

救急車を有料化すべきかどうかについての話

 先日、Yahoo! ニュースで以下のような記事が掲載されました.


救急車は有料化すべきか…搬送者ほぼ半数は軽症、緊急時の影響懸念参照

 内容はガバガバなんですけど、産経ですからまあ・・・という感じです.
 救急車を有料化すべきかどうかの前に、なぜ救急要請が増えているのか、その背景への考察が乏しく、実りのない議論になっています.救急要請増加の背景としては、ひとつに高齢化の進行による医療ニーズの単純な増加があるでしょうし、マルチプロブレムを抱える高齢者が臓器別に分断された医療を施されていて、それが破綻することによる医療供給体制の問題もあるでしょうし、人口の流動性が高まって、老老介護や施設介護などが常態化すること、あるいは核家族化が進むことなどの、家族像の変化の問題もあるでしょう.

 帝京大のお医者さんがどういうトレーニングを積まれたのか知りませんが、恐らく長い間救急の初期診療などに関わりもしない人が「不適切利用が多いから有料化」なんて言っているわけで、現場感の乏しさ、医療者としての器の狭さに目を覆いたくなる内容です.一般市民、特に老老介護で体調も悪い時に「適切利用」を判断することなどできないでしょう.また、医学界が一般市民向けに十分な教育や相談窓口を提供してきたかというと、お粗末極まりないわけですから、自業自得の面もあるわけです.

 対するNPO理事の方も、ご自身の体験として苦労されたのは理解できますが、不安だから無料にしましょうという発想で制度設計できるわけではありません.資源は希少ですから適切な利用を考えるわけです.また、憲法25条を救急車制度に直接引用するのはあまりに理論が飛躍しています.

 自分はもはや、完全に医療従事者としてしか発言できませんが、それでも日々、診療をしていて患者・家族の「不安」がいかに大きいか推測はできます.(失礼な言い方になりますが)素人目線で考えることを忘れてはいけないと思います.また、日本の社会人として、少々の熱や風邪で会社を休めないというのは理解はすべきと思います.救急車や、時間外外来の不適切利用は、ただ「救急車を有料化」というような矮小化した問題提起にあてはめられるべきではありません.ましてや、患者・家族への批判となるべきではないと思います.できることはまだまだあると思います.

2015年6月12日金曜日

ランセット誌より セミナー;中東呼吸器症候群

Seminar; Middle East Respiratory Syndrome
The Lancet. 2015 Jun 03.
Alimuddin Zumla, David S Hui, Stanley Perlman. 


要旨

 中東呼吸器症候群(MERS)は、新型のシングルストランド・プラスセンスRNA ベータコロナウイルス(MERS-CoV)による、致死率の高い呼吸器疾患である.MERS-CoVの宿主であるヒトコブラクダは、直接あるいは間接的にヒトへの感染に関与しているが、正確な伝播様式は不明である.このウイルスは、2012年6月にサウジアラビアのジッダで重篤な呼吸器疾患により死亡した患者から初めて分離された.2015年5月31日までに、1180例が検査室で確認された症例(うち483人が死亡、死亡率は40%)であると、WHOからの報告がある.大部分のMERS症例は、サウジアラビアとアラブ首長国連邦で発生しているが、中東からの旅行者や、中東で患者と接した者によりヨーロッパ、アメリカ、そしてアジアでも発生が報告されている.MERSの臨床的特徴は、無症状や軽い症状から、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全から死に至るものまで様々である.特に、なんらかの基礎疾患のある者では重症化しやすい傾向がある.MERSに対する特異的な薬物治療は存在せず、医療施設での感染拡大防止のための、感染予防およびコントロールが極めて重要である.MERS-CoVは依然として風土病であり、低レベルの公衆衛生上の脅威である.しかし、ウイルスはヒトーヒト感染を起こしやすくなる突然変異を起こす可能性もあり、パンデミックを起こす可能性は増大している.

本文


地理的分布および調査

 2012年6月にサウジアラビアのジッダで最初の報告.その後、2015年5月31日までにWHOで把握されている症例は以下のとおり.サウジアラビア、アラブ首長国連邦での報告がほとんどであるが、その他の地域でも報告がある.アラビア半島周辺が多いが、中国、東南アジアなどでも報告がある.遠方の地域では、韓国はかなりの症例数があることがわかる.




ウイルス学

 複雑かつ専門的であるため割愛する.シングルストランドRNAウイルスであるが、ゲノム解析はされていて、特異的な塩基配列がPCRの標的として知られてる.

疫学

 まず大前提として、MERS-CoVの正確な感染源・感染様式は不明である.
 コウモリに感染するコロナウイルスとMERS-CoVが、ヒトの同じ細胞受容体を利用して感染することがわかっている.しかし、コウモリからMERS-CoVが検出された例は未だない.その他に、アラビア半島における他の動物における、MERS-CoV感染の血清学的検証を行ったところ、オマーンのヒトコブラクダでは100%が、Canary Islands (スペイン)では14%が、抗MERS-CoV抗体を持つことがわかった.一方で、牛、ヤギ、羊からはMERS-CoVは検出されなかった.

ラクダからヒトへの感染

 ラクダからの感染がMERS-CoV感染症に関連しているが、ラクダと接触した患者はほとんどいない.しかしこれは、より直接的でない方法での曝露による、交絡と考えられる.すなわち、サウジアラビアでは珍しいことではないが、ラクダの乳を未滅菌のまま飲用することで、感染源に曝露していたと考えられるのである.しかしいずれにせよ、ラクダとの接触が乏しいにも関わらずMERSを発症することは、ヒトーヒト感染が主体である可能性や、他の媒介生物が存在しており、ラクダーヒト間での感染の交絡因子となっている可能性などを示唆する.
 また、これまでMERSの発症は一年を通して報告があるが、季節性はありそうである.上記のFigure 1からは、2013年および2014年は4-5月に多いが、2014年では9-10月にも小さなピークがある.

ヒトからヒトへの感染

 ヒトーヒト感染については、疫学調査とともに、遺伝子学的調査も行われている(疫学調査:発症した場所、接点はどこか、リスクは何か、など / 遺伝子学的調査:検出されたウイルスを解析して、同じ遺伝子配列を持つかどうかで直接の伝播か、持ち込みによる感染かを確認する).感染の大部分は飛沫感染または接触感染の形をとると思われるが、空気感染やその他の媒介による感染の可能性も否定はできない.
 また、MERS-CoVの伝播には感染患者やその疑いのある患者との濃厚接触が必要とされているが、一方で実際に濃厚接触したとしても実際に伝播した例はほとんど観測されていない.R0(基本再生産数、一人の患者が何人にうつしたか)は、MERS-CoVでは0.7未満とされていて、SARS CoVが1以上とされているのに比して感染力は小さいと考えられている.

臨床症状

 MERS-CoV感染症は、無症候性感染から重篤な肺炎、ARDSを伴うものや敗血症性ショック、多臓器不全などにより死に至るものまで多岐にわたる臨床経過をとる.MERSとSARSの臨床症状の比較については以下のとおり.


 潜伏期は平均5.2日で2週間以内に発症.現時点で再生産数は1未満である.感染者は大人が多い.死亡率は40%に達しており、SARSの9.6%に比べるとかなり高い死亡率.また増悪するスピードも1週間前後で人工呼吸器管理に至るケースが多いのに比べて、SARSは11日間が平均である.
 症状として多いのは、発熱、悪寒戦慄、咳嗽などであるが、呼吸器感染症に非特異的に見られる所見である.検査としては、SARSと同様重症ウイルス感染症として、白血球減少、特にリンパ球減少が見られることがある.その他に、消耗による凝固異常、クレアチニンや乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)や肝酵素の上昇などが見られることがある.また、他のウイルスとの共感染(パラインフルエンザ、ライノウイルス、インフルエンザAウイルス(H1N1) pdm、単純ヘルペスウイルス、インフルエンザBウイルス)や、細菌感染(Klebsiella pneumoniae, Staphylococcus aureus, Acinetobacter spicies, Candida spicies)などの報告もある.
 検査は胸部レントゲン検査、血液検査、尿検査、糞便検査、呼吸器検体などを対象に行う.レントゲン上ではARDSの所見を始め様々な所見を認め得る.ウイルスゲノム等は呼吸器検体(上気道より下気道検体の方がよりゲノム数が多い)に多く、血液や糞便などにも検出されるが量は少ない.

診断

 診断には、決まった方法がある.もっぱらウイルスRNAをPCRなどの遺伝子学的検査で検出すれば感染症と考えられる.リアルタイムPCRの対象となるのはウイルス特異的な遺伝子配列で、E geneの上流(upE)、ORF 1a、ORF 1bが感度・特異度が高いとされている.
 なお、感染経路調査の一環として、上下気道検体、血液、尿、便の検体を同時に検索することが推奨されており、未だ不明な点が多いMERSの研究調査に資されている.

治療

 特異的な治療法はなく、支持療法が基本となる.インターフェロンや抗ウイルス薬(リバビリン等)、既感染者の血清中のモノクローナル抗体などは、研究レベルでの報告はあるが、未だ確固とした治療法として認められてはいない.

予防

 感染防御、感染コントロールのための方法は、飛沫対策(患者の1m以内に近づく場合はサージカルマスクを使用する)および接触対策(使い捨てのガウンと手袋の使用、適切な破棄)である.また、MERS-CoV感染が判明している患者に接するには、ガウン、手袋、眼球保護具(ゴーグル、フェイスシールド)、また呼吸器感染防御のため、必要時、規定のN95マスクを使用する.患者は陰圧個室隔離する.また飛沫核を伴うような処置をする場合は、処置室は1時間に少なくとも6回換気のできる部屋で空気感染防御を行うべきである.
 MERS-CoV感染したラクダについては、鼻炎症状を伴うこともあるし、無症状のこともある.また鼻汁、涙、糞便などからウイルスを拡散する可能性がある.感染したラクダの生乳からもウイルスを検出する.これらと接触しないようにすべきである.

未解決の事柄

 MERS-CoVが発見されて約3年が経とうとしているが、重要な疫学的情報、すなわち感染経路、病原性、そして治療法が、依然として未解決のままである.ウイルスは人獣感染症である可能性が最も高いものの、直接または間接接触、汚染された食物や加工食品などからも感染する可能性が残されている.いくつかの研究ではヒトのMERS発症とラクダからの感染の関連性が示唆されているが、その起源や地理的分布、正確な感染様式、コウモリ、ラクダそしてその他の動物のMERS-CoVとMERS-CoV様感染症とヒトとの関係(relationships between MERS-CoV and MERS-CoV-like infections in bats, camels, other animals, and human beings)など、不明な部分は多い.
 以下の一文は、どう理解すればいいのかよくわからない.”The sporadic nature of many cases of MERS has hindered in-depth case-control studies and investigation of rates of secondary transmission, including establishing the role of subclinical infection in human-to-human transmission.” 散発的な症例報告があるが、二次感染率や不顕性感染であってもヒトーヒト感染するのかについては不明であるということか(散発的なため、十分な解析ができない、ということだろうか)?
 MERS-CoVはヒトーヒト感染を起こすのに十分な感染力がないため、パンデミックを起こす状態ではない.どれくらいの間、ヒトへの持続感染を起こすかがわかれば、ヒトへの適応能の評価ができるかもしれない.動物モデルを使って、重症感染症の病態解析を行う必要性もある.コロナウイルスは遺伝子変異率が高く、アラビア半島の国々でMERS-CoV感染症は発症し続けているため、これらの研究は可及的速やかに進める必要がある.パンデミックを起こしうるMERS-CoVが出現する可能性を視野に入れた取り組みが必要である.

2015年5月31日日曜日

「拭い液」の採取方法

 医学部で教わることは、本当にごく限られた知識である.あるいは、6年間ないし4年間(1~2年生の間は一般教養が課されることが多い)で、あれだけの医学知識を詰め込んだのが驚異的なのかもしれない.
 しかし、いずれにしても実地臨床に立つと、本当に些細なことでも「実はよく知らない」ということがある.もちろん、ぼく個人の純粋な不勉強によるものなのかもしれないが.

 小児科領域に限らず、ウイルスや細菌感染の迅速検査が必要になった際、「咽頭拭い液」や「鼻腔拭い液」などが必要になることがあるが、これらの正しい採取方法を知らなかったのでまとめておく.なお、出典はこちらである(参照 PDF).

スワブの持ち方: これも知らなかったが、ペンの様に持つと良いらしい.コツは、先端をフリーにしておくこと、すなわち相手が暴れても「突き刺さずに済む」ように持つことの様だ.確かに、子どもの場合はよく暴れる.これで鼻出血などを起こしたことはないが、心がけるに越したことはない.なお、よくあるスワブは「筒と一体化しているもの」で、この場合、持ち手の部分が存在するためペンシル持ちは難しいが、これも軽く持つ方がよいのだろう.

鼻腔拭い液: 例えばNGチューブの挿入もそうだが、基本的には鼻腔の「床」に沿わせる様に挿入する.ぼくは突き当たるまで挿入していたが、当然、年齢や大きさによって目安があるらしい.乳児は4cm、幼児は4~5cm、学童は5~6cmほど挿入し、突き当たる数mm手前を狙うと良い.また、挿入してから数秒待って、鼻汁がスワブに染みこむまで待つのが良いらしい.注として書かれているが、暴れているときはいったん手を離す、というのも面白い.

咽頭拭い液: 咽頭は、咽頭後壁、口蓋、扁桃をまんべんなく数回擦過する必要がある.すなわち十分に咽頭を視認しながら実施しなければならない.口蓋垂を跳ね上げる様に、後ろの上咽頭まで擦過する、というのもへぇという感じ.

 上記は、教科書からの出典ではないが、ある程度の参考にはなると思う.

2015年5月16日土曜日

米国小児科学会の細気管支炎のガイドライン 2014.

Clinical practice guideline: the diagnosis, management, and prevention of bronchiolitis.
Pediatrics. 2014 Nov;134(5):e1474-502. doi: 10.1542/peds.2014-2742.

診断

1a. 細気管支炎の診断および疾病重症度評価は、病歴および身体診察によって行われるべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
1b. 重症化への危険因子、すなわち生後12週未満、早産の既往、循環・呼吸系疾患の存在、免疫不全などを評価するべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
1c. 細気管支炎の診断が病歴および身体診察で行われた時は、レントゲンや血液検査はルーチンには行われるべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)

治療

2. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、アルブテロール(またはサルブタモール)の吸入を行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
3. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、エピネフリンの吸入を行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
4a. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、救急外来において、高張生食の吸入を行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
4b. 細気管支炎の診断となった乳児または小児に、入院中、高張生食の吸入を考慮しても良い.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Weak Recommendation [ランダム化試験における一致しない結果])
5. いかなる状況でも、ステロイドの全身投与は行うべきではない.(Evidence Quality: A; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
6a. 酸素飽和度が90%以上であれば、追加の酸素吸入は行わなくても良い.(Evidence Quality: D; Recommendation Strength: Weak Recommendation [低レベルのエビデンスおよび最初の原則に基づく])
6b. 持続酸素飽和度測定は、行わなくても良い.(Evidence Quality: D; Recommendation Strength: Weak Recommendation [低レベルのエビデンスおよび最初の原則に基づく])
7. 胸部の理学療法は行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
8. 同時に細菌感染が存在、ないしその可能性が強く疑われる場合を除いて、抗菌薬投与は行うべきではない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
9. 経口での水分摂取が困難な場合は、NGチューブや経静脈的な補液を行うべきである.(Evidence Quality: X; Recommendation Strength: Strong Recommendation)

予防

10a. 在胎29週0日以上で、その他に特に既往のない児にはパリビズマブを投与すべきでない.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
10b. 在胎32週0日未満の未熟児で、少なくとも生後28日の間に21%より多くの酸素を要した児で、血行動態の異常がある心疾患や慢性肺疾患を持つ場合は、生後1年間の間パリビズマブを投与すべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
10c. パリビズマブの適応のある乳児には、RSウイルスのシーズンに最大で5ヶ月の投与(15mg/kg/dose)を行うべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
11a. すべての人々は、患者に触れる前後、患者の周囲の物に触れた後、および手袋を外した後は、手指消毒を行うべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
11b. 細気管支炎の小児のケアに当たる時は、擦式アルコールによる手指消毒を行うべきである.アルコールが使用できない場合は、せっけんと流水による手指消毒をすべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
12a. 細気管支炎の評価の際は、その乳児または小児のタバコの煙への曝露の有無を聴取すべきである.(Evidence Quality: C; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
12b. 小児の細気管支炎の評価において、保護者に対してタバコの煙や、禁煙などについて助言を与えるべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Strong Recommendation)
13. 呼吸器感染症の罹患率を下げるためには、少なくとも6ヶ月の完全母乳を勧めるべきである.(Evidence Quality: B; Recommendation Strength: Moderate Recommendation)
14. 臨床医および看護師は、個々人や家族に対してエビデンスに基づく細気管支炎の診断、治療および予防について教育すべきである.(Evidence Quality: C; observational studies; Recommendation Strength: Moderate Recommendation) 

2015年5月14日木曜日

肉のソースにバルサミコ酢を使う.

 旨かった.
 バルサミコ酢というのをはじめて使ったが、バターとバルサミコの香りは非常にやばいので、確実に再度やると思う.おそらくなんの肉でも合うだろう.バルサミコというのをよく知らなかったが、Wikipediaによると厳格に基準があるらしく、流通している多くのものはカラメル色素などを使用した「模造品」なのだそうだ.200mlほどで700円弱だったから、安い調味料とはいえないけれど、おそらく「模造品」の方だと思われる.まあ、旨かったからいいと思う.

 レシピは簡単で、

  • バルサミコ酢:肉の量に合わせて大さじ1〜程度
  • バター:5〜10g程度でいい
  • 醤油:小さじ1程度 少量
  • ニンニク:おろしニンニク半かけ程度がよい


以上を、肉の焼きの最後に突っ込んで、ちょっと強火で水分を飛ばせば完成.簡単だね〜.あまりに旨いのでやばいです.

2015年5月11日月曜日

小児救急部門における肺炎の予測

Prediction of pneumonia in a pediatric emergency department.
Pediatrics. 2011 Aug;128(2):246-53. doi: 10.1542/peds.2010-3367. Epub 2011 Jul 11.



 先日のER当直では、「長引く発熱」ないし「頑固な咳嗽」に加えて、「右背側肺底部領域の呼吸音減弱」があって、胸部レントゲン検査を行って、肺炎の診断に至った2例があった.重要と思われるポイントは2点あって、一つは検査閾値の問題、もう一つは身体所見の信頼性である.小児科研修を始めて間もないので、どういう症例で検査をするかというのは大きな問題である.上司曰く「明確な基準はないが3日以上の発熱には検査を加えていい」という意見もあるらしい.これは2点目の問題とも絡むのだが、小児の場合、身体所見の信頼性が低い場合もあって(例:深吸気の聴診などまずできないし、泣いていることもある)、身体所見の精度を上げづらく、検査閾値を左右するまでに至れないケースが少なくなさそうなのであった.
 このような救急外来における、肺炎予測の研究があったので、読んでみようと思う.

 この論文でも、冒頭に「none have specifically addressed the criteria for obtaining a chest radiograph(胸部レントゲン検査を行うための基準を示した研究は見当たらない)」と言っているように、どういう所見を以って胸部レントゲン検査を実施するか、といった判断基準を見出すところが主要なモチベーションとなっている.

要旨
目的:救急外来において、肺炎が疑われる患児での、病歴・身体所見とレントゲン上の肺炎の関連性を評価するための研究であり、胸部レントゲン検査を実施する臨床判断ルールの作成が目的である.
方法:近郊部の小児救急外来における21歳未満で、肺炎が疑われ胸部レントゲン検査が実施された患児に対して前向きコホート研究を実施した(n=2574).肺炎は、放射線科医による胸部レントゲン検査の読影結果により、以下の2つのグループに分類した.レントゲン上の肺炎(確診例および疑い例を含む)と、確定肺炎に分けられた.多変量ロジスティック回帰モデルにより、肺炎状態を従属変数、病歴および身体所見を独立変数として評価した.また、再帰分割分析(変数の値に基づいて対象者を逐次2分して行くことによって、高リスク者同定感度が最高になる変数の組み合わせを求める方法、詳細わからず・・・)も実施した.
結果:16%の患児がレントゲン上の肺炎を呈した.胸痛、局所性のラ音、発熱期間、トリアージ時点でのオキシメトリの値が有意な肺炎予測因子であった.頻呼吸、陥没呼吸、呻吟は肺炎との相関が認められなかった.低酸素血症(Sat<92%)は最も強い肺炎の予測因子であった(odds ratio: 3.6 [95% confidence interval (CI): 2.0–6.8]).再帰分割分析ではSat>92%、発熱の病歴なし、局所的な呼吸音減弱およびラ音なしであれば、レントゲン上の肺炎は7.6% (95% CI: 5.3–10.0)であり、確定肺炎は2.9% (95% CI: 1.4 – 4.4)であった.
結論:病歴および身体所見は、レントゲン上の肺炎のリスクの層別化に利用できるものである.



 結論として筆者は、病歴および身体所見は、ある程度のリスクの層別化には役立つ可能性があるものの、十分な検出力はないとしている.また、独立変数(説明変数)としての各項目も、完全に独立ではない可能性が高い(例えば、SpO2の値と聴診所見は、「診察者がSpO2を見ずに聴診する、というのはERとしてあり得ない」点で独立でない可能性がある)ことが指摘されている.また、本研究の対象者の組み入れ基準が「胸部レントゲン検査を行った者」となっているため、熱や咳嗽を主訴としたすべての患児を対象としていないことによる選択バイアスが存在する可能性にも触れている.

 読後感として、呼吸音減弱の検出力は、感度高め特異度低め(無気肺とかを拾う可能性)で、最終的に肺炎の診断能は低い、みたいなものなのかなと思ったり.呼吸促迫や呼吸不全のORは低いが、SpO2低下のORが高いのはちょっとよくわからない.72時間続く発熱のORが高いのは、身体所見が乏しいのに開けてみると肺炎でしたというケースが少なくないのを説明している(が、なぜ小児で症状や身体所見が出にくいのかは不明).特に最後の発熱については、経験上そうだけど、統計的にもそうなんだ、というのをよく表していて興味深いと思った.
 一方で、筆者も挙げているように「対象の組み入れ基準が胸部レントゲン検査を行ったこと」であるのが、この研究の大きな弱点となっているように思われる.一般臨床をやっていく上で、論理の流れとしては「症状、病歴、所見→検査」であって、検査が大前提となった研究にどこまで意義があるのかは議論すべきところだろう.裏を返せば、「レントゲンをするほど肺炎を疑っていた」症例が多く含まれていることが推察されるから、過大評価の危険性がある.ただでさえ大したORが出せなかったのに、これが過大評価だったとなれば研究意義が損なわれることは明白である.

 この研究の”balancing of the paper”を評価すると、「強くはない」となってしまうだろうか. 

2015年4月5日日曜日

転職、つまり後期研修の開始

 この3月をもって、初期研修を修了し、4月から別の病院で後期研修を開始した.小児科をやりたいと思っていたので、現在、とある県の小児病院で研修をしている.
 一通りのオリエンテーションは終わって、自分は総合診療科の病棟から研修開始となる.当院は、おそらく全国的に見てもかなりスタッフ数が多く、曰く、都内の某大きな病院(ここ)の2倍近いんだとか(おそらく、対患者比).

 話は変わるが、医師の採用ってどうも、待遇などに関しての情報が不明瞭なのがまかり通っている様子である.これは、時間外が他職種に比してあまりに多かったり、よくわからない手当(診療手当、被曝手当、などなど)が多かったりすることによるんだと思うけど・・・当院もやはり、ベースの給料というのは知らされずであったが、初任給調整手当(たぶん4月の給料として払われる分)が明記してあったのは前の職場とは明らかに違う.また、労働組合がかなり強力なようで、時間外手当が80時間/月 までつくらしい.さらに、科長が日勤(休日の日中の労働ローテ)や当直の割り振りを決める際に、適度に時間外をつけられるようにシフトを組むとか、何とか週××時間の労働時間に”届く”ように調整するとか、およそ医師不足とは縁遠い感じの職場である.

 初期研修の頃は、当直月10回で、残業は当然だったけど、今は労働条件としては大きく改善した.一方で小児病院であるため、いわゆる3次病院としてかなり難治な症例が多く、勉強が全く追いつかないのが現状である.しかし、これまで一般的な疾患を中心に見てきて偏った鑑別を、ここでやっと、小児科らしく再構成できる/すべき時が来たとも言える.今、勉強していて、小児の失神の鑑別にMELASがあるのをハッと思い出した.珍しいが、外すことはできない疾患がたくさんあるし、実際に患っている患児・家族に会うことができるのは貴重な経験である.学び多くなることが期待できるし、楽しみである.

2015年2月17日火曜日

ステント時代における不安定狭心症/非ST上昇性心筋梗塞に対する早期侵襲的治療と保存的戦略の比較

Early invasive versus conservative strategies for unstable angina and non-ST elevation myocardial infarction in the stent era.
Cochrane Database Syst Rev.2010 Mar 17;(3):CD004815. doi: 10.1002/14651858.CD004815.pub3.
 不安定狭心症(UAP)および非ST上昇性心筋梗塞(NSTEMI)に対しての治療法として、早期にCAGおよび冠動脈再灌流治療を行う方法、ないしまずは内服治療を実施し、症状など必要に応じて侵襲的検査・治療を行う方法の2種類がある.
 Cochraneでは、5つのスタディ(7818名の患者)を利用し、intention-to-treat分析でランダム効果モデルを用い、95%信頼区間における相対リスクの推定要約が、全原因死、致死的あるいは非致死的心筋梗塞、または再発性狭心症を第一エンドポイントとして設定されているものとした.
 結論としては、初回入院中の死亡については侵襲的治療の方が危険(RR 1.59, 95%CI 0.96-2.64)である傾向があった.また侵襲的治療戦略は長期フォローアップでの死亡率を下げなかった.心筋梗塞の発症率については、6-12ヶ月(5トライアル)および3-5年(3トライアル)で侵襲的治療が有意な減少を示した(RR 0.73, 95%CI 0.62-0.86; and RR 0.67, 95%CI 0.67-0.92).さらに、早期および中期(4ヶ月未満および6-12ヶ月)の再発性狭心症はいずれも有意に侵襲的治療群で減少を示し(RR 0.47, 95% CI 0.32-0.68; and RR 0.67, 95% CI 0.55-0.83)、同時に早期および中期の再入院率も低下させた.侵襲的治療群では、周術期の心筋梗塞のRRを2倍に上昇させ、出血合併症のRRを1.7倍に上昇させたが、脳卒中のリスクは上げなかった.
 筆者の結論としては、UAP/NSTEMIの治療戦略は、保存的治療よりも侵襲的治療の方が、短期間における再発性狭心症および再入院率を減少させ、また長期間における心筋梗塞を減少させるものと考えられた.一方で侵襲的治療は手技に伴う心筋梗塞や出血リスクを上げることもわかる.以上のことより再発イベントのリスクの高い患者に限っては、侵襲的治療は有益かもしれない.

2015年2月8日日曜日

腕時計を趣味に

 社会人になって、しばらくは学生の頃から使っていたSKAGENを使っていたんですが、電池の消耗からか1日で数分遅れるようになって、買い替えをしたりしていたら、腕時計をジロジロ見るような人間になってしまいました・・・

 今回、ひとつご紹介したいのが、"SUUNT AMBIT 3"というスポーツウォッチ.いきなり普通の腕時計ではないんだが、気に入って使っているので.
 ランニングも好んでやっているのだけれど、ランニング中に着けられる時計はないかなと思って考えていたところ、この時計が目に留まりました.ランニング中というのは、携行品が少ない状態なので、ひとつひとつが目立つわけです.ゆえに、見た目に良いものを選びたいなと思っていたんだけど、GARMINなどもよく選ばれるようですが、見た目の良さでSUUNTにしました.
 使用感はというと、GPSは優秀で、iPhone NIKE+のアプリのGPSと大差ない計測誤差でデータをPCに移行させて専用ソフト Movescount で見れば、ペース配分、ケイデンスなどを含めた詳細情報が確認できてランニング後も楽しめる仕様になっている.
HRベルト(心拍ベルト)を使うともっとデータは多い.
無駄にワクワクするんだよねこういうの.
マップを表示したりできるらしいけど、スマフォがある状況でわざわざこういう機能は使わない.デジタルコンパスも便利なんだろうけど現時点では使用せず.
 電池持ちは、やはりGPSを使用しているとかなりの消費量になる.2時間程度走って20%強は消費される.これは競合他社に比較するとまずまずのパフォーマンスなんだろうけど、普通の時計として考えると「週に何回も充電する」というのは違和感はある.ま、普段使いの時計というわけではないんだろうけど.
 あと、普通に使ってて違和感があるのは、ベルトがポリウレタンの弾性のある柔らかい素材で、本体部分がやや重いものだから普通に置くと画面を下にして転がってしまうところ.横置きすればいいんだけど、時計を縦に置く癖があるのでいつも落ち着きどころがなくて気になってしまう(文章じゃ伝わりにくいけれど).
 そのほかにも、余計?な機能として普段の生活のactivity度合いや消費カロリーを表示してくれるのは、スポーツのみならず普段の生活に運動を取り入れるのに良い感じ.
 ランニング後に、「休息時間」が表示されるけど、おそらく負荷によって一定数の休息時間を表示するだけであまり意味はなさそう.まーそれだけ休めば確かに大丈夫でしょう、っていうくらいの数字が表示されますが.

 見た目もよく、スポーツを楽しく、可視化してくれる時計です.5万前後でまずまずのお値段.ランナー的には、ありだと思います.

あと少し

 世の中は医師国家試験だ.自分が受験したのは2年前.遠足気分だったことだけは思い出せるけれど、試験の内容についてはほとんど覚えていない・・・.振り返ればまさに遠足という感じで、楽しかったような印象があるんだけれど、実際受けてる時は生きた心地がしないんだよね.受験生の皆さん、どうか頑張って.
 自分はお金がなかったので、卒業旅行は最小限で、国内旅行を数日しただけで、国試後の1ヶ月ほどはほとんど読書して過ごしたものだった.卒業旅行のことを研修先の病院で聞かれたらやだなーとか思っていた.

 あっという間に、初期研修もラスト2ヶ月.当直回数は・・・あと10回程度?このドギツイ当直もあと数回と思うと、寂しくもあり、やっとここまで来たか、という感もあり.最後まで、サバイブしたい.