2013年2月27日水曜日

無題・引用

科学哲学,ドミニク・ルクール,文庫クセジュ,2005

 医療実践は,カンギレムの反省を「規範」「正常性(規範性)」「規範形成力」という概念を再吟味することへと向かわせたのである.カンギレムは,近代医学を1つの科学として称揚する支配的な実証主義の流れに逆らって,正常が逸脱(偏差)に対してつねに二次的であるということを明らかにした.カンギレムは,統計的に確立された平均として規範を客観主義的に理解することはすべてある不明瞭さに基づいており,その不明瞭さが順応主義的な目的のために,規範の確立の意味そのものを失わせてしまうということを示すのである.彼は,治療学がすでに与えられた生理学的な知の単なる適用にはなりえないだろう,ということに注意を喚起する.フランスの外科医であるルネ・ルリッシュ(1879~1955年)からカンギレムがかりた言葉によれば,医学は一つの技術,すなわち「複数の科学の交差点にある技術」であり続ける.個々人は固有の来歴に基づいて,比較し判断することで自分が病気であると宣言するのだが,結局のところ,医学はそのような個人の訴えが医学の原理のなかにあることを想定している.では科学者がそれぞれ依拠していることに気づくこの生命の諸価値から,認識することの意味を画定する手段はないのだろうか.カンギレムはベルクソンに反対して「科学は生命の向こう見ずな企てであるときだけ,みずからの意味をもつ」と述べている.生命は,保存と拡大というみずからの目的に到達するために,概念という重要な形式を想像するのである.ところで人間の固体は,それぞれ独自な生物である.その規範形成力は,他の生きている人びととの共通の尺度に頼らずみずからを肯定し,自分を貫く力の関係から確立される新しい諸規範を想像する一つの能力になる.したがって,ニーチェのような仕方で健康を定義し,固体が新しい地平を拓くために,みずからの限界を乗り越えることを肯定し引き受ける危険として,健康を定義しなければならないのではないだろうか.

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