われわれは,すべてのものを包括する統一的な知識を求めようとする熱望を,先祖代々受け継いできました.学問の最高の殿堂に与えられた総合大学(university)の名は,古代から幾世紀もの時代を通じて,総合的な姿こそ,十全の信頼を与えらるべき唯一のものであったことを,われわれの心に銘記させます.しかし,過ぐる100年余の間に,学問の多種多様の分枝は,その広さにおいても,またその深さにおいてもますます拡がり,われわれは奇妙な矛盾に直面するに至りました.われわれは,今までに知られてきたことの総和を結び合わせて一つの全一的なものにするに足りる信頼できる素材が,今ようやく獲得されはじめたばかりであることを,はっきりと感じます.ところが一方では,ただ一人の人間の頭脳が,学問全体の中の一つの小さな専門領域以上のものを十分に支配することは,ほとんど不可能に近くなってしまったのです.
『生命とは何か 物理的にみた生細胞』シュレーディンガー
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