2012年10月22日月曜日
医療保険制度の一元化にかんする論点
日本の医療 制度と政策,島崎謙治,東京大学出版,2011
現行の医療保険制度は被用者保険と地域保険の二本建てとなっている.これはもともと,1922年に労働立法として健保法が,また1938年に農村の疲弊を救済するために国保法が制定され,田畑や農地をもつ農民がムラ・地域単位で形成する地域保険と,「カイシャ」(企業や官庁など職域共同体)単位で形成する被用者保険をベースとした保険制度が確立したことに端を発する.しかし高度経済成長を経た20世紀後半になって,社会経済の変化に伴い保険者の実態は変化した.とりわけ国保に強い影響があらわれ,2007年度の国保の世帯主の職業構成は,無職者(その多くは高齢者)が過半(55.4%)を占め,農林水産者(3.9%),自営業者(14.3%)を合わせても2割に満たず,被用者(国保内被用者)の23.6%より小さくなっている.農林水産者,あるいは自営業者の少なさに加え,国保内被用者の割合が低くはないことからも,被用者保険と地域保険の境界が曖昧になっていることは間違いない.医療保険制度を地域保険に一元化すべきだという見解が登場する背景である.
Q. 医療保険制度を地域保険に一元化すべきか?
反論1:稼得形態の違い.自らの権限と責任で事業を営む自営業者と異なり,生産手段をもたず他人に雇われ生計を維持せざるを得ない被用者については,その稼得形態の性格上,労働保険(労災保険および雇用保険)だけでなく医療保険においても一定の配慮を必要とする.保険料が労使折半となっているのもそのためである.仮に地域保険に一元化した場合,事業主は保険運営に関わらないため保険料の事業主負担の根拠が喪失する.これは財源確保の問題もさることながら,被用者に対する社会保護政策のあり方の根本に関わる問題である.
反論2:所得捕捉率の相違.収入そのものの補足の問題と,必要経費の補足の問題がある.自営業者の所得や経費を完全に補足するのは不可能であり,一元化したとしても結局は別体系での保険料の賦課・徴収となりうる.
反論3:原則と例外の関係.非正規労働者が増大しているといっても,被用者保険加入者が全体の約6割を占めている.将来的に考えても雇用という形態が廃れることは考えにくく,従って行うべきことは,原則を例外に合わせることではなく,被用者保険と地域保険の二本建ての体系は維持した上で,被用者の範囲について必要な見直しを行うことである.
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